Date and Time: Dec. 17 (Thu.), 2015, 13:00 – 14:30
Place: Meeting room #306, Building E-3, UEC
Speaker: Dr. Shigeru Tanaka (Prof., BLSC, UEC)
Chair: Prof. Yukio Yamada
Title: Studies of unsolved problems in the self-organization of the primary visual cortex
Abstract: 哺乳類一次視覚野のニューロン応答特性や機能的構築については、1960年代以降膨大な研究蓄積があるが、未だに明確な説明がなされていない実験事実がある。そこで本発表では、従来の理論研究では説明できない実験事実を明らかにするとともに、その問題解決に向けて、最近、私と共同研究者が進めているいくつかの理論研究について紹介したい。
哺乳類一次視覚野のニューロンは、その反応特性から単純型細胞と複雑型細胞の二つのカテゴリーに分類されている。従来、複雑型細胞は方位選択性を示すが、単純型細胞とは異なり、呈示するバー刺激の位置に依存しないことが知られている。この性質を説明するためには、単純型細胞受容野の空間位相をプーリングする必要がある。しかしながら、ヘッブ学習に基づく自己組織化モデルでは、様々な位相を持つ単純型細胞からのシナプス入力が一つのニューロンに収斂せず、位相に応じて棲み分けてしまう。すなわち、単純型細胞からは単純型細胞しか形成されない。そこで、我々は、時定数の長いNMDA受容体サブユニットNR2Bの効果に着目し、時間的なプーリングを利用して複雑型細胞の受容野を再現することに成功した。
ネコ・フェレット・サルでは最適方位がほぼ連続的に表現される方位マップが存在することは知られていたが、最近のイメージング研究によって、マウスやラットに代表されるげっ歯類では、類似の方位に反応するニューロンが隣接せず、いわゆるsalt-and-pepperタイプのランダムな表現を呈することが分かってきた。このsalt-and-pepperタイプの方位表現を再現するために、「げっ歯類の皮質内興奮性結合について、個々のシナプス伝達効率は高いがsparseである」という仮説を検討した。シミュレーションによると、興奮性結合確率が0.1よりも大きい場合には方位マップが形成されるが、0.1よりも小さくなるとげっ歯類の視覚野に見られるようなsalt-and-pepperタイプ表現が再現された。また、磁性研究で用いられるm-成分スピングラス理論を援用して解析的に計算したところ、salt-and-pepperタイプの方位表現は、sparsenessによって引き起こされる、最適方位がランダムに凍結したガラス状態であることが分かった。すなわち、皮質内興奮性結合のsparsenessが、種に依存した方位表現の形成に重要であることが示唆された。