日時: 2014年2月24日(月)13:00~14:30
場所: 東4号館802室
講師: 惣谷和広 氏 (独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター 大脳皮質回路可塑性研究チーム・専門職研究員)
司会: 田中 繁 特任教授
題目: 抑制回路を介したコリン作動性ニューロンによる覚醒脳の動作制御機構
概要: 大脳皮質神経回路網におけるGABAニューロンの機能は,単に神経回路網の活動レベルを抑制するだけではなく,興奮性ニューロンの特徴選択的な情報処理や生後発達初期の感受性期における神経回路網の成熟に重要な役割を果たすことが想定されている.しかし,GABAニューロンが3次元空間の神経回路網内にどのように分布し,その作用はどの程度の広がりを持つか?そもそも大脳皮質情報処理機構における抑制の役割は定量的に直接的に何なのか?大脳皮質神経回路網動作原理における抑制系回路の機能に関する重要な問題は,未だ解明されていない. そこで我々は,「in vivo二光子励起機能的Ca2+イメージング法」とチャネルロドプシンを用いた光による神経細胞刺激法を駆使し,神経回路網の「構造と機能」という視点からGABAニューロンの機能解析を行い,抑制系による大脳皮質神経回路網の動作制御機構の解明を目指してきた. 大脳皮質神経回路網の動作制御機構を理解する上で,覚醒脳からの神経活動を細胞レベルで計測し解析することは重要である.そこで今回は,げっ歯類における大脳皮質初期視覚野の興奮性ニューロンとGABAニューロンの視覚応答反応を麻酔時と覚醒時で計測し解析を行った. その結果,GABAニューロンの視覚応答性が,麻酔時よりも増大し,視覚刺激に応答する信頼度も増強した.それに対し,興奮性ニューロンは,麻酔時と覚醒時で視覚応答性に変化はなかったものの,視覚刺激に対して視覚応答している時間の長さが短縮された. 次にこれらの反応特性の違いに前脳基底部(Basal Forebrain: BF)からのコリン作動性ニューロンの活動が関わっているのかどうかを検討するため,BFを電気刺激またはチャネルロドプシン刺激を行うことによって,麻酔下で興奮性ニューロンとGABAニューロンの視覚応答に対するBF刺激の効果を解析した.またさらにBF刺激の効果がどのレセプターを介しているのかを調べるため,急性スライスによる薬理学的実験を行った. その結果,脳の覚醒効果は,BFのコリン作動性ニューロンの活動が,大脳皮質初期視覚野1層ではニコチンレセプターを介して,また,2/3層ではニコチン/ムスカリンレセプターを介して,直接的にGABAニューロンの活動に作用することによって,興奮性ニューロンの視覚応答特性を修飾するという,抑制回路が介在する新しい脳神経回路網動作制御機構の一端が明らかとなった. 今回の発表は,我々が用いている「in vivo二光子励起機能的Ca2+イメージング法」やチャネルロドプシン神経細胞刺激法といった光を用いた新しい生理学的な手法の紹介をし,実際にこれらの手法を用いて明らかとなった覚醒脳の神経回路網動作制御機構を「ニューロモジュレーター回路-抑制回路-興奮性ニューロン」といった回路網レベルの視点から報告する予定である.